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3.初めまして! だぜぇ

時は2006年6月下旬。今と同じ梅雨時の ある日の朝。
「副店長、面接だそうです」
俺は額の汗をぬぐいながら、声がした方を振リ向いた。するとそこには、一人の女史がレジのスタッフと共に立っていた。
「面接ですか? 今日、予約が入っていましたか?」
実は あの日の朝、俺は何も聞いてはいなかったのだ。気のせいだろうか? 女史はまばたきをしつつ、少しばかり驚いたように俺の顔を眺めていた。 中居正広は、「ジャニーズ系って よく言われます」というが、同じくジャニーズ系とよく言われる俺の美貌に つい、見惚れてしまったのだろう。実に よくあることだ。今更 驚くこともないが、あとで本人が言うには、
「どうみても25歳くらいの若さなのに、凄いスピード出世だなぁ、副店長だなんて!大学のキャンパスを普通に歩いていても違和感ないみたい」ということだったらしい。
確かに俺は実年齢より若く見られる傾向にある。あの頃は、特にそうであったのだ。
例えば、地元の祭りに出かけていくと、
「ボク、これ、食べる?」
と話しかけられたものだ。 幼い子供を見るような、出店の おいちゃんの精一杯の作り笑顔と猫なで声は、流石に気持ち悪かったが、俺のことを ボクと呼ぶあたり…。どうも、俺を幼いガキと勘違いしているようだった。差し出された試食を受け取っても良いものかどうか? 迷った俺は、当時、幼稚園児だった娘を抱っこして、再び親切なおいちゃんの元へ急いで戻った。これなら、子持ちの父親だと理解してくれるだろう。
ところが、おいちゃん。どういうことか、「ボク、お兄ちゃんなんだね。妹を連れてきたのか。よし! 妹ちゃんにもおやつをあげよう!」
と、にこにこ笑顔だったのだ。

ボク、これ食べる?

ボク、これ食べる?

ボク、これ食べる?

ボクボクボク…・

わが子を連れて行っても、尚、ボクと呼ばれる俺って、一体…・。
今、目の前に居る女史も年齢不明なところがあった。女史は答えた。
「10時から面接をするので、2階へ来て下さいと言われたのですが、2階へはどうやって行くのですか?」
「二階ですか。二階なら…本社面接ですね」
サービスカウンターのスタッフが階段の場所まで案内してくれるというので、任せておいた。あの時点では、まだ、俺は、あの鈴木すず子が我がグロッサリーに加入するとは全く知らずにいたのだ。約30名いるグロッサリー 一族の中で、誰よりも早く鈴木すず子に会ったのは、実は俺、ミナミちゃんだったのだぁ。
皆さん、知ってたぁ?
俺、知ってた。(泣)

4.人事課長渡部氏も困惑!?

「南くん、居るぅ〜?」
バックの奥から現れたのは、人事の渡部課長。どうやら、鈴木すず子の面接を終えて、ここへ来たようだ。俺は、本日、休みの修ちゃん店長に代わり、面接の内容について、報告を受けた。
「結果は数日後、連絡することにしているから。残念ながら断る時は、履歴書を郵送します、と本人には伝えておいたよ。ここに履歴書のコピーがあるから、店長に渡してくれ」
俺は、履歴書に目を通しながら、さっき会った女史を思い浮かべた。
年齢…? ん? 俺より年上?
「それで…・働くとしたら、いつから働けるのですか?」
グロッサリーに配属になると聞き、俺は一番気になることを課長に尋ねた。
「それがだねぇ。明日からでも構いませんが、いつから働けますか? と、やる気を問うつもりで質問したのだが、一週間後! というではないか」
「いっ…一週間後…ですかっ…。それはっ…面接だけ受けて、来ませんよという意思表示かも…ですかね?」
俺は、ちょっと考えつつ、課長に呟いた。これまでスーパーの臨時雇用の面接に来た人は、殆ど、明日から働けます、いや、たった今から! と言うものだ。一週間? 旅行の予定でもあるのだろーか? 俺が悩んでいると、渡部課長は実はだねぇ…と、声を潜めた。
「これだけじゃないんだよ。南くん。働けない日はありますか? と尋ねたところ、何と答えが返ってきたと思うかね?」
「もし、子持ちの主婦なら、子供が休みの土日は家に居たいので、働けませんとか…そういうことですか?」
俺は、いたって妥当な答えしか浮かばなかった。まさか、彼氏とデートの日で〜しゅ!なんて答えではないだろう。
「驚きすぎて、腰を抜かさないように…この前、お米を積んでいて、「末永さん…・ちょっと来て。俺、ぎっくり腰になったみたいだから、誰か呼んできて!」と二階の整骨院に運ばれた時の二の舞はよしておくれよ…」
渡部課長は、そういうと、再び俺の耳元で囁いた。
「ホークスの応援をするために、福岡ドームへ行く日は、働けません…って言うんだよ。これ、どう思うかね?」
「は?」

俺は、「は?」

の後が、続かなかった。

は? の次は、「ひ」だろう。

その次は、「ふ」だ。ちなみに、麩はお吸い物に入れると美味しい。乾物担当の俺が言うのだから、間違いはない!

更に次は「へ」だ。しかし、俺は、へなどふってはいない。
「ほー」

遂に俺は、「ほー」と発するのが やっとであった。
ほぉ〜!
呆れたというか、何というか…

「そっ…それで…課長は何と答えたのですか?」
俺は興味本位で聞いてみた。いや、本当は、答えを聞くのが恐ろしくて 足がガクガク…というのは、ちと、大袈裟だが。
「僕も 同席した藤本くんも、そっ…・それは…店長に言って下さいっ!」
と、答えるのが、やっとだったよぉ〜。いや〜 参ったな」
「課長…もしかして、一瞬、固まりましたか?」
「あぁ…まぁ、とにかくだな。働けるのは、どっちにしても、一週間後らしいから、南くん。ここは、ゆっくりと考えてみたまえ。教育マニュアルは、しっかりしていますから、大丈夫です、と本人には伝えてあるから。あとは現場が どう判断するかだねぇ」
履歴書を残し、俺の元を課長は去っていく…。
俺は手元に残った履歴書のコピーを見た。
何なに?
オーストラリアに留学? オーストラリアのシドニーにあるスーパーで働いていた?
オーストラリアといえば、カンガルーの国か。
シドニーといえば、オリンピックも開催された国際都市。
ふと、俺の脳裏には、シドニーの街中をカンガルーが跳ねている姿が浮かんだ。
これが、運命というものだろう。
俺は、どうしても、日本の街で、
「あっ! 馬だ!」
と、馬を見かける頻度と、
シドニーの街で、
「あっ! カンガルーだ!」
と、カンガルーを見かける頻度は同じくらいか、確かめたくなったのだ!
ど〜しても! だっ。
そこで、悩んだ挙句、俺は鈴木すず子を現場へ迎える意思を課長に伝えた…? (この辺りはフィクションだね〜 誰が、どのように採用決定したかは、不明だもん。真相は、し〜らないっと By すず)
課長の部下、藤本さんが、鈴木すず子の自宅へ電話連絡をし、後日、改めて俺が詳しい勤務時間などについて、連絡を入れる、ということになった。
さてっと…。