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ご注文



著  金野 仁美




""ライ ""とは、アンディさんの飼っているペットで、ハムスターとフェレットを足して二で割ったかのような動物だが、ジャンプをすると、ビーバーのように胴が長くて平たい。瞳はエメラルドグリーンをしている不思議な動物で、ギルバートたちによくなついていた。
アンディさんによると、ライはとても長生きをする動物で、もう何百年も生きているという。
「こんにちは、ライ」
メルシーは笑って、バッグからチョコチップクッキーとセサミチーズクッキーを取り出すと、ライの前に差し出した。
ライは、メルシーの家のチョコチップクッキーとセサミチーズクッキーが大好物だった。ハムスターとかフェレットというと、チョコレートは食べられないはずなのだが、ライは大丈夫だという。結局の所、ライがハムスターなのか、フェレットなのか、はたまた違う動物なのか、ギルバートもメルシーも分からなかったが、そんなことはどうでもよかった。この人懐っこいかわいい小動物が、ギルバートもメルシーも大好きだったからだ。
ライは嬉しそうな顔をして「キィ」と小さく鳴くと、ちょこんとお辞儀をした。
「良かったな、ライ。いつもありがとう、メルシー」
アンディさんが、紅茶をカップに注ぎながらほほ笑んだ。
「ほんと、ライはメルシーのクッキーが大好きだな」
ギルバートが、夢中でクッキーを頬張っているライの頭を優しく撫でると、ライは顔をあげ、嬉しそうな表情をして、もう一度「キィ」と小さく鳴いた。
「実は、アンディさんに聞きたいことがあるんです。エコーズ草というのをご存知ですか?」
ギルバートは、アンディさんがいれてくれた紅茶を飲みながら尋ねた。
アンディさんのいれてくれる紅茶はいつもおいしい。アンディさんの家の棚には、たくさんの紅茶の缶が並んでいる。ダージリン、アッサム、アールグレイ、セイロン、オレンジペコ、ウバ、ニルギリなど主なものから、ストロベリー、ラズベリー、ブルーベリー、フランボワーズ、ピーチ、アップルなど果物の紅茶や、バニラ、キャラメルなど甘い紅茶も揃えてあった。カモミール、レモンバーム、ローズヒップなどのハーブもあり、ハーブはアンディさんが育てたハーブだ。これらのたくさんの紅茶を、その日の気分でアンディさんは飲んでいた。
「…エコーズ草? それは、エコーズの森にいる生物に生えている草のことかな?」
アンディさんは、飲んでいた紅茶のカップをテーブルに置いて二人を見つめた。
「そうです、それです。やっぱりアンディさんは、エコーズの森のことを知っているんですか?」
「あれは、特別な森なんだが…何でまた、二人はエコーズの森なんかに用があるのかい?」
「私たち、その森に行って、エコーズ草を取ってきたいんです」
「ハハハ、それはジャックの手伝いかな?」
二人はビックリして、顔を見合わせた。
「何で分かったんですか?!」
二人が驚くのをよそに、アンディさんはニヤッとしてみせた。
「ジャックが、今年のグラシアス祭は魔法の発明をしてみんなを驚かすって言って、この間も、その発明に使う材料についてここに聞きにきたんだよ」
ギルバートとメルシーはそれを聞いて一瞬ぽかんとした。それなら、その時にエコーズのことも聞いてくれれば良かったのに…。
「でも、ジャックが、どこにエコーズの森があるのか分からないみたいで…それに、本にも書かれていないそうなんです」
「そうだね、エコーズの森がどこにあるか書いてある本はないし、地図上にも存在しないね」
そう言って、アンディさんは引き出しから古びた地図を取り出して二人の前に広げると、真ん中の辺りを右手で指した。
「ここだよ、ここがエコーズの森だ」
アンディさんが地図を持っていることを知って、二人はびっくりした。
「何で、アンディさんは地図を持っているんですか?! エコーズの森が書かれている地図はないはずなのに…」
「これは、私の先祖が書き残したものなんだよ。エコーズの森は一般的には広められていないから、私も、他人にエコーズの森のことを話したりはしない。だけど、君たちはエコーズの森に行くのが、どうしても必要みたいだからね!」
そう言って、アンディさんは片目をつぶってみせた。「ここからは大分離れているが、エダム川を使えば近道でいける。私が船を貸してあげるから、毎日それを使って通いなさい」
「ありがとうございます、アンディさん! …って、毎日!?  そんなにエコーズ草を取るのは難しいんですか? 一日とかじゃ無理なのかしら?」
メルシーは飲んでいた紅茶のカップを思わず落としそうになりながら目を見開いた。
「エコーズはそう簡単には見つからない生物なんだ。だから、毎日森に通うことが、エコーズ草を早く取るための近道なんだよ」
「どうりで、ジャックが僕たちにお願いしたわけだ」
ギルバートが苦笑すると、メルシーも、「そうね、そんな簡単に取れないって言っていたものね」と言って肩をすくめた。
「なに、毎日一日中行っている必要はないよ。君たちにもいろいろ都合があるだろうし、好きな時間に行って、好きな時間に帰ってくれば大丈夫だよ。それに、運がよければ、一,二日で取れるかもしれないしね」
アンディさんのアドバイスを聞いたギルバートとメルシーは、早速、次の日からエコーズの森に行ってみることにした。