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ご注文

 

著 中村 千恵子



これは、ずっと昔・・・お侍さんがいた江戸時代のお話です。

小野町の館山という村に、人間をだましては喜んでいるイジワルキツネがおりました。

イジワルキツネは頭にずきんを(キュッ)と、くくってかぶっていました。

村の人々はいつも、ずきんをかぶってるイジワルキツネを(くくりキツネ)と呼んでいました。

ある日のことです。

村娘の加代が慌てた様子で和尚のもとに駆けこんできました。

そして加代は泣きながら、和尚に話をしました。

それはこんな話でした。

夕暮れ時、加代が一人で山道を歩いていると、ガサガサと草が揺れる音がして、何年も前に

死んだはずの加代のおばあちゃんが、目の前にピョンと飛び出てきたそうです。

加代は死んだおばあちゃんが急に目の前に現れたのでとっても驚きました。

それはもう、胸がバクバクして、心臓が破裂しそうで、目が飛び出しそうで、腰が抜けそう

なくらいでした。

死んだはずのおばあちゃんが、加代をジッと見つめているのです。

加代は怖くなって、慌てて逃げ出しました。

山の木々がガザガザ・・・ワサワサ・・・と大きな音を立てて、加代を後ろから追いかけてきました。

加代は木々が揺れる音を、死んだはずのおばあちゃんが追いかけて来ている音だと思い、顔を

真っ青にして死に物狂いで山道を走りました。

その時、加代はあまりにも慌てて走ったのでズデーンと転び、足を怪我してしまいました。

(おばあちゃんは、まだ追いかけてきているのだろうか?)

恐る恐る加代が後ろを振り向くと、そこにいたのは・・・死んだおばあちゃんではなく、キツネ

の姿に戻った(くくりキツネ)でした。

そうして(くくりキツネ)は加代を見ると、

「アハハハハ、アハハ。まんまとだまされた。あぁ〜おもしろい。加代は間抜けだ、村一番のたわ

けものだぁ」

と大笑いして山の中に帰っていきました。

山道に取り残された加代は、足の痛みと悔しさでワーワーと泣きました。

加代から話を聞いた和尚は、

「死んだ人間に化けて人間を化かすとは、なんて意地の悪いキツネだろう」

と(くくりキツネ)を懲らしめることにしました。

それから幾日か経ったある日のこと、(くくりキツネ)はまた誰かをだまそうと、今度は

可愛い女の子に化けて和尚のところにやってきました。

「おらに習字を教えておくれ。おら、字が上手くなりてぇんだ」

女の子に化けた(くくりキツネ)が和尚さんを見上げて言いました。

「あぁ、いいよ。喜んで教えてやるべ」

和尚さんは、化かされたふりをして(くくりキツネ)に習字を教え始めました。

しかし(くくりキツネ)はすぐに習字の練習に飽きてしまい、

「習字なんか楽しくないわ。習字はいいから、お手玉をしようよ」

と言いました。

和尚は、

「飽きたなら仕方無いな。それならお手玉をするか」

と女の子に化けた(くくりキツネ)とお手玉で遊びました。

だけど(くくりキツネ)はまたすぐに飽きてしまい、

「お手玉なんか面白くないわ」

とお手玉を放り投げました。

和尚は、

「それじゃ、次はあやとりで遊ぶか? 教えてやるぞ」

と言いました。それを聞いた(くくりキツネ)は、

「あやとりならするわ」

と喜びました。

だけど(くくりキツネ)は考えることがとても苦手で、あやとりしてる内に、

「う〜ん? 次はどうやるのだろう?」

と頭を抱えて考えこんでしまいました。

すると、どうでしょう!

(くくりキツネ)は考えすぎたのか、うっかりキツネの姿をあらわしてしまったのです。

その様子を見た和尚は、

「よし、今だ! 待っていました!」

とばかりに、急いで(くくりキツネ)をつかまえると、縄で縛りました。

そして(くくりキツネ)を鐘の中に吊るすと、

「こらぁ〜、悪さしちゃなんねぇぞ。人をだますのは悪いキツネだ。悪いキツネにはお仕置きだぞ」

と鐘を何度もゴ〜ンと鳴らしました。

(くくりキツネ)は、鐘の中で吊るされながら、

「もう人をだまさねぇから、お願いだ、許してくれぇ〜。助けてくれよぉ〜」

と泣いて謝りました。