それから、どれくらいの時間が経ったのだろうか?
俺はいつの間にかその場で眠ってしまっていた。そして、口元の水の冷たさで目を覚ましたのだ。そう、またしてもミューイが俺を看病してくれていたのだ。
俺はゆっくりと身体を起こし立ち上がると、既に身体中に力が漲っていることを知った。
眠っている間にミューイが俺に精霊の泉≠フ水を与えていたのだ。
俺はミューイの優しい瞳を見詰めながら頬を撫でた。
「ミューイ、ありがとう…」
そして俺は意を決して、ミューイに跨った。
「さあ出発しようミューイ! 一刻も早く美咲を助け出さないと、朝陽が昇ってくる前に」
すると、ミューイも翼を大きく羽ばたかせ元気よく天高らかに一鳴きした。
俺はその時、覚悟を決めていた。この自分の命と引き替えに美咲を必ず助けだすんだという事を…
湖面を通り過ぎると、なぜだか急に道が狭くなっていた。
そして、更に突き進むと遂には目の前の道が完全に途切れてしまっていた。
「何なんだ…」
そう思った途端、今度は目の前の地面が音をたてて崩れ落ち、陥没したではないか!
俺が驚いている間に、眼下は断崖絶壁≠フ岩場と化してしまっていた。
「魔女クアーナだな、こんなことしやがって…」
そう呟き、俺は恐る恐る崖下を覗き込んだ。
「そ、底が見えない…これはただの断崖じゃない」
俺とミューズを今にも吸い込もうと、崖下からは生暖かい風が次から次へと巻き込むように吹き上がってきていた。
俺は慌てて引き返そうと思い、ミューイの手綱を引き振り向かせた。
すると後ろも左右も既に地面が陥没していたのだ。
『ちくしょう、いつの間に…こんな所から落ちたら…』
それはまるで、底無しの断崖だった。いくら目を凝らして崖の底を覗こうとも不気味な空間がどこまでも続いていて、底があるのか確認できない…。
その呑み込まれそうな恐怖に、俺の身体からは力が抜け、足は竦み全く動けなくなってしまった。
それでもミューイは翼を一生懸命羽ばたかせ、必死にバランスを取っている。
その時、突然! 強風が俺とミューイを襲った。
それは俺とミューイを崖下に落とそうとしているかのように、あらゆる方向から何度も吹きつけてきたのだ。
ミューイは堪らずに俺の方を振り向き一鳴きした。
「ミューイ、大丈夫だよ、落ち着くんだ。これ以上動いたら、崖下に落ちちゃうよ、落ち着くんだミューイ」
俺はミューイを宥めるようにそう言いながら、必死で手綱を掴んでバランスを保った。
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