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ピアノの森で
著 かがい みえこ

花園屋敷の魔法使い
著 まつい みさき




* ピアノの森で
著 かがい みえこ


 森がなくなり、たくさんの白いチョウの群れも どこかに溶けるように消えてしまうと、後には漆黒の闇があるだけだった。
 最初にルフルンが、その壁のような闇の前に立ち止まると、勝義もひとみも、シズカも同じように立ち止まってしまった。
(この壁のような闇の向こう側に、行けるのだろうか? ほんとにそこには、私達の住む世界があるのだろうか? それとも地獄?)
ひとみは、じっとその闇を見つめていた。
するとその闇は、鏡のように光りはじめ、呆然としているひとみの顔が写った。
 闇の壁は、まるで黒光りをするピアノのように見えた。そしてその闇の中に、見たことのあるおばあさんの姿があった。
「あ! モーツアルトのおばあさんね!」
 ひとみはハッと思いだして、おばあさんに駆け寄っていった。そのあとをルフルンが、勝義が、そして最後にシズカが追うようにやってきた。



* 花園屋敷の魔法使い
著 まつい みさき


 丸い月がまぶしいくらいに、大きくかがやいていました。その月あかりにてらされた庭は、昼間に見たときとはまるで違ったものに見えました。庭の木々がいっせいに、色とりどりのきれいな花を咲かせているのです。風が吹くたびに花がゆれ、金色の綿毛が空に舞いました。
「わあ〜」
 チトは、口をポカンとあけて見とれてしまいました。花はその美しさを競うように咲いています。
「ほら! あの白い花が空を飛ぶためのくすりよ」
 おばあさんが、麦の穂のような形の白い花を指さして言いました。
「あの赤くて丸いぼんぼりみたいな花の蜜をクッキーにまぜると、テテの仲間ができるのよ」
 おばあさんが手を伸ばすと、風がさわさわとゆれました。
「あの、うすむらさきの小さいお花は?」
 チトは、奥のほうにたくさん咲いている忘れな草のような花をさして聞きました。聞こえなかったのか、おばあさんは塀にそって並んでいる三本のねじくれた木を指さしました。
「あの木はね、こわい夢をおいはらってくれるの。チトちゃん、少し持って帰る?」
「いいの?」 
チトは、とってもうれしくなりました。
「もちろんよ。枕の下に葉っぱを入れておくといいのよ。そうすれば幸せな夢ばかり見られるようになるからね」
 おばあさんは、細い枝を1本折ると、チトのスカートのポケットに入れてくれました。
「この葉っぱが茶色くなってしまったら、こわい夢を吸いとれなくなってしまったっていうことなのよ。そうしたら取り替えてあげるから、古い枝を持ってらっしゃい」
「うん、ありがとう」
 あれは、おなかが痛くなったときのためのくすり、こっちが…