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著  森野  円



5年前といえば、和夫くんは八才、お姉さんは十才でした。
その学芸会で、月の光の精の役を演じたお姉さんを、和夫くんは今でもはっきりと覚えていました。
それは 砂漠を旅する王子様と王女様が『月の砂漠』の歌とともに登場し、旅を続ける物語です。
ある日のこと、夜になっても泉のあるオアシスまでたどりつけずにこまっていると、月の光の精があらわれて 道あんないをしてくれました。
王子様と王女様の一行は助かり、月の光の精にお礼を言います。
月の光の精は、王子様と王女様の幸せをいのり、おどりながら月へともどります。

そのときのことを、思い出した和夫くんは、
(月の光の精は、劇の中のお姉さんのように まっ白なドレスをきているのかな)と思いました。
「こんや九時、やねうら部屋のドアをしずかに開けると、月の光の精の舞を 見ることができますよ。じゃあ、わたしはこれで」
ゆで卵のからはそう言って きえてしまいました。
「そんなことって、本当にあるのかな」
和夫くんは ふしぎな気持ちになりました。