goodbook project U 優秀作品
気休めだと笑われる言葉でも
作 JUNC 絵 伊藤 晴美
isbn978-4-903847-36-8
\1,050
君なんだろうな
君を救ってあげられるのは
きっと君なんだろうな
何百、何千人が
どんな手を使っても
結局は君が
自分で「うん」と言ったもの
自分で納得できたもの
そんなものが君を動かしてく
君を救ってあげられるのは
きっと君なんだ
君の1番の理解者で
君の1番の味方は
きっと君なんだよ
だから信じるんだよ、自分を
生きていこうっていう、自分を
君が信じてあげること
君を信じてあげること
それが自信になっていくんだ
それで歩いていけるんだ
それで生きていけるんだ
全然、気にしなくていいよ
心ない言葉は心がなくて
まるまるすっぽり心がなくて
きっと誰でもないから
そこにいるってわけじゃないから
実体のない
気持ちのない
そんな言葉なんて
全然、気にしなくていいよ
心ない言葉で
傷を作ることなんてないんです
そんなのはじめから
あったことのない言葉なんだから
そんなのはじめから
つくはずのない傷なんだから
心ない言葉は心がなくて
まるまるすっぽり心がなくて
きっと誰でもないから
そんな言葉なんて
全然、気にしなくていいよ
気休めだと笑われる言葉でも
気休めだと笑われる言葉でも
気が休まるのならと
だらだらと書きつづけてみる
誰かみててくれてるのだろうか
誰かの心に届いてるのだろうか
書いてる意味があるのだろうか
まあ、いい
見ていても見ていなくても
書かずにはいられない
この気持ちをこの言葉を
風に吹かれてどこかに吹かれて
僕が見失ってもふらりと
どこかにたどり着いてるといい
誰かにたどり着いてるといい
キレイごとだって言われてもいい
生きていこうって生きていくよって
誰かができればみんなが
どこかでちゃんと想ってくれれば
goodbook project U 優秀作品
ボクらのこころは なないろきんぎょ
作 いわお まゆみ
isbn-978-4-903847-32-0
\1,365(税込) 上製本
たくさんの小学生の友達がきて、150個あった金魚も残り10個になったとき。
ケイコさんは言った。
「残った金魚でみんな、釣りしよう。今日はみんな頑張ったもんね!」
「ほんとぉ〜?」
みんな おおよろこび。
ボクも、「やったー」って叫んだ。
それからケイコさんは、「ちょっと、見てきます」と言って走っていった。
きっと、ヒロさんを探しに行ったんだね。
ボクは『待ってましたぁ〜』とばかりに、釣り糸で光る金魚をひっかけた。
これこれ!
これが欲しかったんだ。
やっとボクらの番だ。
その時、しゅ〜ボンボン!
音がすると、水面も揺れた。
赤い色。黄色。銀色。金色にプールの水が光った。
「わぁ〜、花火だ!」
みんな、高い、たかーい空をみた。
つぎにボクは花火が落ちてくる水面をみたんだ。
音で ゆれている?
みんな光っている、ひかっているよ!
夜空も、水面も、そして金魚たちも、みんなキラキラ重なって光っている。
ボクの こころも金魚みたいに光っている。
ドキドキわくわくして光っているよ!
goodbook project U 優秀作品
珈琲千話
著 月魄なゆた
isbn-978-4-903847-34-4
\1,365(税込)
〔ビルのバー〕
ほんの少しだけ気取って入るバーがあるけど、興味あるかい?
なければ仕方ない、このバーは無視しな。
折角だからって、聞いてみたければ、そのままいな。
”ほんの少しだけ”気取っているのは、このバーが劇場のバーだからだろうと思うよ。
違う違う、歌劇場ではない。それはフェラーリ広場にある。
これは、ブリニョレ駅の近く(前かな)にある、劇だけ見せる劇場。
私は入ったことがないが、歌なしの劇らしい。だから劇場だろ。(さっきから言っとるだろうが)
ここ、昼休みの時間にでも来れば、1ユーロとかで気楽に入れるらしい。もちろん、1ユーロでちゃんとした劇が見れるわけはない。
”1ユーロで気楽に入って、そこで練習する学生たちの劇をながめながら、持って来たサンドイッチをかじったりするのですよ”
と、私は若い学生に聞かされた。
おもしろそうだと思ったし、学生にはそう返事してやったんだが、やったことがない。
昼を喰う、というところで、すでに突っかかってしまっている。
喰わなきゃ、ただ”見る”為に入ることになり、学生の芝居の練習を見に、1時間だか2時間だか、座っている気持ちの余裕がない。
しかし、君は確かに”昼を食う”派の人間だろ。
サンドイッチを買って来て、ジェノバの学生に混じって、芝居の練習を、ある昼に見ても悪くなかろう。
その後に、入ってみるとよろしいのだよ、このバー。
ここは、ほんの少し気取っていても、格調高く、伝統重く、のバーではない。
広い空間に、ゆったり置かれた、赤いビロード張りの長いすが、そんな気を起こさせるだけの、実は普通の大きなバー、レストランにもなります、タイプのバーであるんだ。
この大きなクッションの効いた長いすと、広くて重いテーブルが、座り心地よく、仕事しやすい。
奥から小型犬のひゃんひゃんいう声が聞こえてきたりするが、そんなのは気にもならん。
しかし、このレストラン的バー、入りにくい。
店に足を踏み入れにくい、敷居が高い、の意味ではなく、店の入り口が隠れていて、偶然に見つけなければ、道から見たのでは、ここにバーがあるのかどうかさえ分からないってことさ。
だけではなく、あそこにバーがある、と店を見つけて突進して来ても、入り口がどこか、皆目分からず、ぐるぐる回ることもあるだろう。
つまり、ここには来たい者だけが来る。
当然、人が少ない。
よってゆっくりできる。
このバーは、私と相棒、別々に見つけて、お互いに自慢しようとして、二人とも相手が知っていると知り、がっかりしたという変な経歴のバー。
仕事しやすいんだから、仕事すりゃいいようなもんなのに、いつしか、ここには討論しに来てしまうようになったよ。なぜだったかな。
問題があると、このバーに来て、誰もいない大テーブルに二人で距離を置いて座り込み、おもむろに熱いカプチーノを注文し、やがてやって来るきちんと熱いカプチーノを黙って飲みながら、窓の外の、コンクリートの風景を見やる。
この前奏の時間が過ぎて、やにわに口から泡の討論を開始したり、一言ぽろり、二言ぽつりの、意気消沈のがっくり気抜けの会話を交わしたりする。(料金踏み倒されたときに、この方向に走りやすい)
時々、集団で来る人たちを見ると、昼食時の同僚集団は別としても、書類をテーブルに、何やら討論し始める団体の場合が多い。
我々に限らず、思わず討論しやすいバーだと見える。
だからといって、君、ここに来たら討論するのは義務ではないよ。
コーヒー飲みにだけ来てもいいと思うよ。かなりいい線のを作ってくれる。
黙って席にすわっとれば、日本の喫茶店のように、注文取りに来てもくれるしな。もちろん、座ればその分、高くなるのは当たり前。
あ、そうか。
どうやって行くか教えとかんと、たどり着けんだろうな、君。
ブリニョレ駅の前、まで言ったね。あの駅はもう知っとるだろう、君。
その駅の広場から、10mほど左手に(駅から見て)、非常な鋭角を見せてそそり立つ、この町には珍しい、ガラス張りの近代的ビルがある。
町の建物の雰囲気を乱す、と相棒なんかは毛嫌いしているビルだが、とにかく、バーはその一階にある。
ただね、このビルはどこからでも見えるし、バスが通っている大通りに沿っていくと、ビルの入り口は分かるんだが、その通りからはバーは見えない。
ビルのとなり、立橋があって、それを渡ると、自然にビルの2階の外廊下のようなものに続いている。
それを歩きながら下を見ると、中庭のような一階にバーがあるのがちらりと見える。
立橋を降りて(降りるのも大変だ、離れたところに降りてしまう)、自然にバス通りの方に流されていくが、ここで流されては、もう永遠にバーに着けない。
降りた時点で、くるりと反転して、ビルの、暗くなる側面を回ってみたまえ。
やがてバーが見えて来るし、ドアもある。
ただ、時々、意味なく閉店していることがあるから、気をつけな。
今日だって、さっき行こうと思ったら、ドアに張り紙がしてあった。
閉店
閉店
閉店
なんで3回も書くんだ。
わかった、わかった、わかった。
goodbook project U 優秀作品
勿忘草を指にはさんで
著 絵乃綴莉
isbn-978-4-903847-32-0
\1,050(税込) 上製本
微笑み
誰にも
触れることのできなかった
あなたの心
誰にも
見ることのできなかった
あなたの心
誰もが
触れてはいけないと思った
あなたの心
誰もが
見てはいけないと思った
あなたの心
もう
誰にも触れることはできない
もう
誰にも見ることはできない
でも
誰もが触れたがった
でも
誰もが見たがった
最後に
誰もが
触れたものは
最後に
誰もが
見たものは
あなたの微笑み
春の夢
くり色の仔馬にゆられ
春の高原を
散歩しているのは
わたしの詩です
過ぎた日と手をつなぎ
ひとりぼっちで
水色の空の下を
夢見心地に
ゆらゆらゆれて
優しい風と出会い
花のリボンをなびかせ
あのひとを想い
小鳥のように
ときめき羽ばたいて
くり色の仔馬にゆられ
春の高原と
戯れているのは
わたしの詩です
薔薇
薔薇は
秘められた想いを
閉じ込めて
一本の愛のリボンで
束ねられる
どうしょうもなく
吐く恋の
狂おしい炎を
深紅の色に変えて
しんみりと
感謝の心を
星のように小さく
散りばめて
薔薇は
香り高い想いを
放ち
一本の愛のリボンで
結んだ夢を届ける
goodbook project 優秀作品
あおい村の点鬼簿
著 月魄なゆた
(イタリア在住)
isbn-978-4-903847-31-3
\1,365(税込)
U
検察官
その男の名はルイージ・カルリ。
仕事についたばかりの若い検察官だ。彼はある日、次のように命じられる。
ジェノバの田舎に行って未解決の事件を調べて来い。なーに、古い事件だ、急ぐこたあない。と付け加えられたかどうか、そこまでは定かではない。
しかし、経験もない若造が、二重殺人を任されるなど、よっぽど上の信頼が厚かったか、面倒になった問題を若いのに任せて荷を下ろしたかったかのどっちかの気がする。
どんないきさつで送られたにしても、この男は、ビアカバばあさんの事件発生から2年、ドラギンじいさんからは4年も経ってから、また捜査しろと言われたのだ。
ちょっとでもいい加減なやつだったら、そんな捜査が効果的とも思えんから、かっこつけだけに配属されたのだということを悟って、仕方なし、かっこつけだけに捜査をしたにちがいない。
だいたい、検察官なんては、あまり捜査の表に出てくるもんではないんじゃないか。カラビニエリと警察を指揮してはいても、警察やカラビニエリの中にも、上官というものがいる。現に、この前の捜査を中心になって行ったのは、二人のカラビニエリだった。
検察官は、裁判に備えて、自分のオフィスで対策を練っている、のイメージがないか。
ところが、この男は違った。
まず、下にいる者たちをほとんど使わなかった。
一人で捜査を開始したんだ。
でも、君。それほど時間が経って、現場で証拠集めなど、もうできないだろうし、どうやって捜査を再開すると思う?
私も考えたが、残る唯一と思われる方法は、現に我々がやった、古い調書を漁って、分析することではないか。
我々の場合は、その調書というのが、記事だったり、本だったりするわけだが、この検察官はそれまでの警察の調書を読んだんだろう。
そうして我々は闇に迷った。
それなのに彼は、道を見つけたんだ。
まず彼が見つけたものは、一つの墓だったよ。その下には、ジュゼッペ・ムッソが眠っていた。
ムッソは、この時の14年前に死亡しており、彼には馴染み深い、バルガッリの墓に入ることとなった。ジュゼッペ・ムッソは、バルガッリの教会の鐘つき、そして墓掘りだったんだ。
カルリ検察官は、このムッソの眠りを大声で妨げた。
ムッソは殺されたのだ、と発表したんだ。墓の中でぎょっと座り直したかもな。
こうして、検察官は、世に忘れられてしまっていたジェノバの郊外、小さな村の事件を、再びみなの注目の元に引きずり出した。
そうしておいて、加えたんだ。ムッソだけではない、村ですでに死亡している、
『アッスンタ・バッレット』
『チェザレ・モレスコ』
この二人の”自然死”も、実は殺人であった疑いがある、と。
そして、この3人にとどまらず、バルガッリの医者から自然死だ、事故死だとされていたほかの死についても、殺人であったか否かの調査を行うつもりである、と。
この発言が何を意味していたか分かるかね。
これは、数を殺していく、バルガッリの連続殺人鬼の誕生だったんだ。
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