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goodbook書店

きまぐれ日記

projectU掲載原稿

出版登竜門
                            
新刊のご案内



goodbook project U 優秀作品

気休めだと笑われる言葉でも

作 JUNC   絵 伊藤 晴美
isbn978-4-903847-36-8
\1,050

君なんだろうな

君を救ってあげられるのは
きっと君なんだろうな

何百、何千人が
どんな手を使っても

結局は君が
自分で「うん」と言ったもの
自分で納得できたもの

そんなものが君を動かしてく

君を救ってあげられるのは
きっと君なんだ

君の1番の理解者で
君の1番の味方は

きっと君なんだよ

だから信じるんだよ、自分を
生きていこうっていう、自分を

君が信じてあげること
君を信じてあげること

それが自信になっていくんだ

それで歩いていけるんだ
それで生きていけるんだ


全然、気にしなくていいよ


心ない言葉は心がなくて
まるまるすっぽり心がなくて

きっと誰でもないから
そこにいるってわけじゃないから

実体のない
気持ちのない

そんな言葉なんて
全然、気にしなくていいよ

心ない言葉で
傷を作ることなんてないんです

そんなのはじめから
あったことのない言葉なんだから

そんなのはじめから
つくはずのない傷なんだから

心ない言葉は心がなくて
まるまるすっぽり心がなくて

きっと誰でもないから

そんな言葉なんて
全然、気にしなくていいよ


気休めだと笑われる言葉でも

気休めだと笑われる言葉でも
気が休まるのならと
だらだらと書きつづけてみる

誰かみててくれてるのだろうか
誰かの心に届いてるのだろうか
書いてる意味があるのだろうか

まあ、いい
見ていても見ていなくても
書かずにはいられない
この気持ちをこの言葉を

風に吹かれてどこかに吹かれて
僕が見失ってもふらりと
どこかにたどり着いてるといい
誰かにたどり着いてるといい

キレイごとだって言われてもいい
生きていこうって生きていくよって
誰かができればみんなが
どこかでちゃんと想ってくれれば









goodbook project U 優秀作品
ボクらのこころは 

作  いわお まゆみ

isbn-978-4-903847-32-0
\1,365(税込) 上製本


たくさんの小学生の友達がきて、150個あった金魚も残り10個になったとき。
ケイコさんは言った。
「残った金魚でみんな、釣りしよう。今日はみんな頑張ったもんね!」
「ほんとぉ〜?」
みんな おおよろこび。
ボクも、「やったー」って叫んだ。

それからケイコさんは、「ちょっと、見てきます」と言って走っていった。
きっと、ヒロさんを探しに行ったんだね。

ボクは『待ってましたぁ〜』とばかりに、釣り糸で光る金魚をひっかけた。
これこれ!
これが欲しかったんだ。
やっとボクらの番だ。

その時、しゅ〜ボンボン!
音がすると、水面も揺れた。
赤い色。黄色。銀色。金色にプールの水が光った。

「わぁ〜、花火だ!」
みんな、高い、たかーい空をみた。
つぎにボクは花火が落ちてくる水面をみたんだ。
音で ゆれている?
みんな光っている、ひかっているよ!
夜空も、水面も、そして金魚たちも、みんなキラキラ重なって光っている。
ボクの こころも金魚みたいに光っている。
ドキドキわくわくして光っているよ!





goodbook project U 優秀作品
珈琲千話
著 月魄なゆた

isbn-978-4-903847-34-4
\1,365(税込)


〔ビルのバー〕
ほんの少しだけ気取って入るバーがあるけど、興味あるかい?
なければ仕方ない、このバーは無視しな。
折角だからって、聞いてみたければ、そのままいな。

”ほんの少しだけ”気取っているのは、このバーが劇場のバーだからだろうと思うよ。
違う違う、歌劇場ではない。それはフェラーリ広場にある。
これは、ブリニョレ駅の近く(前かな)にある、劇だけ見せる劇場。
私は入ったことがないが、歌なしの劇らしい。だから劇場だろ。(さっきから言っとるだろうが)

ここ、昼休みの時間にでも来れば、1ユーロとかで気楽に入れるらしい。もちろん、1ユーロでちゃんとした劇が見れるわけはない。
”1ユーロで気楽に入って、そこで練習する学生たちの劇をながめながら、持って来たサンドイッチをかじったりするのですよ”
と、私は若い学生に聞かされた。
おもしろそうだと思ったし、学生にはそう返事してやったんだが、やったことがない。
昼を喰う、というところで、すでに突っかかってしまっている。
喰わなきゃ、ただ”見る”為に入ることになり、学生の芝居の練習を見に、1時間だか2時間だか、座っている気持ちの余裕がない。
しかし、君は確かに”昼を食う”派の人間だろ。
サンドイッチを買って来て、ジェノバの学生に混じって、芝居の練習を、ある昼に見ても悪くなかろう。
その後に、入ってみるとよろしいのだよ、このバー。

ここは、ほんの少し気取っていても、格調高く、伝統重く、のバーではない。
広い空間に、ゆったり置かれた、赤いビロード張りの長いすが、そんな気を起こさせるだけの、実は普通の大きなバー、レストランにもなります、タイプのバーであるんだ。
この大きなクッションの効いた長いすと、広くて重いテーブルが、座り心地よく、仕事しやすい。
奥から小型犬のひゃんひゃんいう声が聞こえてきたりするが、そんなのは気にもならん。
しかし、このレストラン的バー、入りにくい。
店に足を踏み入れにくい、敷居が高い、の意味ではなく、店の入り口が隠れていて、偶然に見つけなければ、道から見たのでは、ここにバーがあるのかどうかさえ分からないってことさ。
だけではなく、あそこにバーがある、と店を見つけて突進して来ても、入り口がどこか、皆目分からず、ぐるぐる回ることもあるだろう。
つまり、ここには来たい者だけが来る。
当然、人が少ない。
よってゆっくりできる。

このバーは、私と相棒、別々に見つけて、お互いに自慢しようとして、二人とも相手が知っていると知り、がっかりしたという変な経歴のバー。
仕事しやすいんだから、仕事すりゃいいようなもんなのに、いつしか、ここには討論しに来てしまうようになったよ。なぜだったかな。
問題があると、このバーに来て、誰もいない大テーブルに二人で距離を置いて座り込み、おもむろに熱いカプチーノを注文し、やがてやって来るきちんと熱いカプチーノを黙って飲みながら、窓の外の、コンクリートの風景を見やる。
この前奏の時間が過ぎて、やにわに口から泡の討論を開始したり、一言ぽろり、二言ぽつりの、意気消沈のがっくり気抜けの会話を交わしたりする。(料金踏み倒されたときに、この方向に走りやすい)
時々、集団で来る人たちを見ると、昼食時の同僚集団は別としても、書類をテーブルに、何やら討論し始める団体の場合が多い。
我々に限らず、思わず討論しやすいバーだと見える。

だからといって、君、ここに来たら討論するのは義務ではないよ。
コーヒー飲みにだけ来てもいいと思うよ。かなりいい線のを作ってくれる。
黙って席にすわっとれば、日本の喫茶店のように、注文取りに来てもくれるしな。もちろん、座ればその分、高くなるのは当たり前。

あ、そうか。
どうやって行くか教えとかんと、たどり着けんだろうな、君。
ブリニョレ駅の前、まで言ったね。あの駅はもう知っとるだろう、君。
その駅の広場から、10mほど左手に(駅から見て)、非常な鋭角を見せてそそり立つ、この町には珍しい、ガラス張りの近代的ビルがある。
町の建物の雰囲気を乱す、と相棒なんかは毛嫌いしているビルだが、とにかく、バーはその一階にある。
ただね、このビルはどこからでも見えるし、バスが通っている大通りに沿っていくと、ビルの入り口は分かるんだが、その通りからはバーは見えない。
ビルのとなり、立橋があって、それを渡ると、自然にビルの2階の外廊下のようなものに続いている。
それを歩きながら下を見ると、中庭のような一階にバーがあるのがちらりと見える。
立橋を降りて(降りるのも大変だ、離れたところに降りてしまう)、自然にバス通りの方に流されていくが、ここで流されては、もう永遠にバーに着けない。
降りた時点で、くるりと反転して、ビルの、暗くなる側面を回ってみたまえ。
やがてバーが見えて来るし、ドアもある。

ただ、時々、意味なく閉店していることがあるから、気をつけな。
今日だって、さっき行こうと思ったら、ドアに張り紙がしてあった。

  閉店
  閉店
  閉店

なんで3回も書くんだ。
わかった、わかった、わかった。





goodbook project U 優秀作品

勿忘草を指にはさんで

著  絵乃綴莉


isbn-978-4-903847-32-0
\1,050(税込) 上製本


微笑み

  誰にも
触れることのできなかった
あなたの心
  誰にも
見ることのできなかった
あなたの心
  誰もが
触れてはいけないと思った
あなたの心
  誰もが
見てはいけないと思った
あなたの心

  もう
  誰にも触れることはできない
  もう
  誰にも見ることはできない
  でも
  誰もが触れたがった
  でも
  誰もが見たがった

  最後に
  誰もが
触れたものは
  最後に
  誰もが
見たものは
  あなたの微笑み
  
      
春の夢
  
くり色の仔馬にゆられ
  春の高原を
散歩しているのは
  わたしの詩です
  
過ぎた日と手をつなぎ
  ひとりぼっちで
水色の空の下を
  夢見心地に
  ゆらゆらゆれて

  優しい風と出会い
花のリボンをなびかせ
あのひとを想い
小鳥のように
ときめき羽ばたいて

  
くり色の仔馬にゆられ
  春の高原と
戯れているのは
わたしの詩です

薔薇

  薔薇は
  秘められた想いを
  閉じ込めて
一本の愛のリボンで
  束ねられる

  どうしょうもなく
吐く恋の
  狂おしい炎を
  深紅の色に変えて

しんみりと
  感謝の心を
星のように小さく
散りばめて

  薔薇は
香り高い想いを
  放ち
  一本の愛のリボンで
  結んだ夢を届ける
  
 






goodbook project 優秀作品

あおい村の点鬼簿

著 月魄なゆた

(イタリア在住)
isbn-978-4-903847-31-3
\1,365(税込)


U
検察官

その男の名はルイージ・カルリ。
 仕事についたばかりの若い検察官だ。彼はある日、次のように命じられる。
ジェノバの田舎に行って未解決の事件を調べて来い。なーに、古い事件だ、急ぐこたあない。と付け加えられたかどうか、そこまでは定かではない。
しかし、経験もない若造が、二重殺人を任されるなど、よっぽど上の信頼が厚かったか、面倒になった問題を若いのに任せて荷を下ろしたかったかのどっちかの気がする。
どんないきさつで送られたにしても、この男は、ビアカバばあさんの事件発生から2年、ドラギンじいさんからは4年も経ってから、また捜査しろと言われたのだ。
 ちょっとでもいい加減なやつだったら、そんな捜査が効果的とも思えんから、かっこつけだけに配属されたのだということを悟って、仕方なし、かっこつけだけに捜査をしたにちがいない。
 だいたい、検察官なんては、あまり捜査の表に出てくるもんではないんじゃないか。カラビニエリと警察を指揮してはいても、警察やカラビニエリの中にも、上官というものがいる。現に、この前の捜査を中心になって行ったのは、二人のカラビニエリだった。
検察官は、裁判に備えて、自分のオフィスで対策を練っている、のイメージがないか。
 ところが、この男は違った。
まず、下にいる者たちをほとんど使わなかった。
一人で捜査を開始したんだ。

でも、君。それほど時間が経って、現場で証拠集めなど、もうできないだろうし、どうやって捜査を再開すると思う?
私も考えたが、残る唯一と思われる方法は、現に我々がやった、古い調書を漁って、分析することではないか。
我々の場合は、その調書というのが、記事だったり、本だったりするわけだが、この検察官はそれまでの警察の調書を読んだんだろう。
そうして我々は闇に迷った。
それなのに彼は、道を見つけたんだ。

まず彼が見つけたものは、一つの墓だったよ。その下には、ジュゼッペ・ムッソが眠っていた。
ムッソは、この時の14年前に死亡しており、彼には馴染み深い、バルガッリの墓に入ることとなった。ジュゼッペ・ムッソは、バルガッリの教会の鐘つき、そして墓掘りだったんだ。
カルリ検察官は、このムッソの眠りを大声で妨げた。
ムッソは殺されたのだ、と発表したんだ。墓の中でぎょっと座り直したかもな。
こうして、検察官は、世に忘れられてしまっていたジェノバの郊外、小さな村の事件を、再びみなの注目の元に引きずり出した。
そうしておいて、加えたんだ。ムッソだけではない、村ですでに死亡している、
『アッスンタ・バッレット』
『チェザレ・モレスコ』
この二人の”自然死”も、実は殺人であった疑いがある、と。
そして、この3人にとどまらず、バルガッリの医者から自然死だ、事故死だとされていたほかの死についても、殺人であったか否かの調査を行うつもりである、と。
この発言が何を意味していたか分かるかね。
これは、数を殺していく、バルガッリの連続殺人鬼の誕生だったんだ。





goodbook project U 優秀作品

生まれてくれて ありがとう

著  倉持  武
isbn978-4-903847- 36-8
\1,260


 早速フイッシャー博士の手で、医療スタッフが編成された。そして健介の精子が採取され、一時凍結保存された。同時に、涼子の準備も開始され、卵子の採取が行われた。しかし、もう三個しか取れない。これが最後のチャンス。後はもうない。そこでスタッフはより妊娠の確率が高い“顕微授精”を行うことにした。これは顕微鏡下で、人工的に卵子の細胞質内に精子を注入する方法である。
 受精卵が涼子の体内に戻された。しかし、一回目は失敗。そして、二回目も――。
(ああ、もうだめだわ。神様、おねがい!)
涼子は合掌し、必死に祈った。このときは、涼子ばかりでなく、麗華も恵子も、そして吉川も――。いや、当の健介も祈っていたかもしれない。勿論フイッシャー博士も、そしてスタッフも、とにかく全員が祈った。
 そして、最後の受精卵。これがダメなら、もう永久に妊娠することはできない。医師からは、「もうすこしリラックスして」との指示を受けた。そこでしばらくは病院から離れて、各地を見学して歩いた。
サンフランシスコの街に出て、ケーブルカーに乗ったり、港に行って湾内を一周するクルーズも楽しんだり。翌日はロスへ飛んで、本場のデイズニーランドを見学。更にユニバーサルスタジオに行って、撮影セットも見学した。思いがけない行楽に、身も心も完全にリフレッシュ。ロスから帰って、休む間もなく、今度はヨセミテ公園にドライブ。巨大な岩に圧倒され、自然の織り成す驚異に感激の連続。さらに翌日は、ベースボールスタジアムに行って、野球観戦。日本人選手の活躍を目の当たりにして感動で身が震えた。こうして、一週間もの間、まったく病院から離れて、アメリカンライフを楽しんだ。そして、最後のチャンスに挑んだ。
 受精卵を子宮に戻されて、しばらく安静。あとは神に祈るだけ。もう、なにもかも忘れて、ただひたすらに神に祈った。
「ああー、神様・・。助けて――」
もう、祈る以外に方法がない。この治療のことは、日本にも伝えてある。母からも叔母からも毎晩電話がかかってくる。
そして――
 ついに運命のときがきた。今日は妊娠を確認する日。目眩がするほどの緊張。まず尿検査。なんと陽性反応。妊娠の可能性が高い。続いて精密検査。その結果――。
「リョウコサーン、オメデトウ」
と、フイッシャー博士。満面に笑みを湛え、両手を広げて涼子を抱きかかえた。その瞬間、「ほ、ほんとですか?」と、涼子が言って、その後は絶句。そして、涙、涙、涙。瞳が大きく見開かれ、瞬きすら忘れている。あまりのうれしさに声もでない。早速、夫のもとへ。
「あなた! 赤ちゃんが、赤ちゃんが!」
といったまま、健介にしがみついて号泣。勿論健介になんの反応もない。しかし、涼子は健介の耳元で、
「あなた、赤ちゃんができたのよ! あなたの赤ちゃんが」
と、何度も何度も呼びかけた。だが、彼は昏々と眠り続けている。しかし、涼子の悲痛の叫びは、彼の脳にも届いているはず。恐らく、脳の内部で、
「よかった、よかった」と、もろ手をあげて飛び跳ねて喜んでいるに違いない。
「神様、ありがとう」
涼子は思わず手を合わせた。
 涼子には、以前に流産した経験がある。そこで、今度は慎重に対応した。その後一ヶ月ほどアメリカに滞在し、日本に帰国した。そして、かつてお世話になった鳥取の聖キリスト総合病院へ。今度は医師の管理のもとで、万全を期した。赤ちゃんは順調に育っている。二十週目を超えるあたりから、涼子のお腹が目立ち始めた。胎教のことも考えて、よく胎児に向かって、クラシック音楽を聴かせたり、童話を読んでやったりと余念がない。その度に、喜んでいるのか、お腹の中で赤ちゃんが両手、両足を突っ張ってその存在を主張する。すでに男の子であることも判明している。できれば、ここに共に喜んでくれる夫がいたなら――。でも、それは無理。だが、彼は涼子の心の中で息づいている。それだけで、十分。彼も頑張った。一時は生死の境をさまよった彼だが、奇跡的に一命を取り留めた。だが、まだ昏睡状態は続いている。
 吉川の話によると、ときどき顔を顰(しか)めるときがあるという。涼子もこんな状態でなければ、再度渡米してついていてやりたい。しかし、今は元気な赤ちゃんを産むのが自分の務め。叔母も神経質なほどに細かいところまで気を使い、懸命に涼子をサポートしてくれている。麗華も三ヶ月ほど看病して帰国した。恵子も二ヶ月ほどいて、単身南米に向かって飛び立って行った。今は誰もいない。すべて、あちらの支社の方々に委ねている。
 その彼が帰国することになった。勿論病状が回復したわけではない。だが、これ以上、あちらにいても支社の方々に迷惑をかけるだけ。それなら、いっそ日本の病院で、となったのである。もちろん、涼子もそれを望んでいた。まさに“渡りに船”だった。
 ついに涼子が臨月を迎えた。母も叔母も、すでに準備万端整っている。いつ生まれてきても大丈夫。母も叔母の家に滞在して、その時を待っている。
そして、陣痛が――。
叔父の運転で病院に急行。病院側も準備OK.早速ストレッチャ―に移され、分娩室へ。待つこと一時間。ついに分娩室から、
「オギャーッ!」
元気な赤ちゃんの声。
「やったー!」
ベッドを取り囲む看護師たちが、突然、
ハッピバースデイ、トウ、ユウ。
と、腕を組んで大合唱。そうこうするうちに、年配の看護師に抱かれた赤ちゃんが、バスタオルに包まれて涼子の隣に――。
初めてみるわが子。丸々と太った元気な男の子。体重は三千四百グラム。ぱっちりと開いた目が、夫にそっくり。涼子の目じりから、ポロポロと大粒の涙が零れ落ちた。涼子は、赤ちゃんの紅葉のような小さな手をそっと握って自分の頬に押し当てた。暖かかった。スベスベしていた。その小さな手が、涼子の指をギューっと握り返した。涼子はそっと呟いた。
「あなた。はやく目を覚ましてちょうだい。そして、あなたの赤ちゃんを見てやって。こんなに元気な赤ちゃんよ。ほら、見て。目のあたりが、あなたにそっくり。きっと美男子になるわ」。
この声が、テレパシーとなって、彼の耳に聞こえているに違いない。
「あなた。前に言っていたわよねえ。『ぼくたちの赤ちゃんが生まれてきたら、“生まれてくれて、ありがとう”って、言おうね』って」
涼子は幸福感に打ち震えた。
「さ、あなた。一緒に言いましょう」
涼子はそっと赤ちゃんの耳元に唇を近づけて囁いた。すると、それをまるで理解したかのように、赤ちゃんがニコッと微笑んだ。涼子は大粒の涙をポロオロと零しながら、そのまま赤ちゃんの顔をジーッと見つめていた。いつしか、赤ちゃんの顔が、あの夢枕に立った女神に重ね合わされ、思わず、
「神様、ありがとう!」
と呟いた。そして、先ほどから我が指をギューっと握り締めている赤ちゃんの手を、口に含んだ。ああ、なんとその甘いこと。途端に、ドッと新たな涙が溢れ出し、脳幹がジーンと痺れるような強烈な陶酔感に襲われた。









オージーメイト〜オーストラリア出会い記〜
12月6日発売開始

著 いわおまゆみ
絵 虹河琴女・加藤綾子・伊藤晴美


isbn-978-4-903847-30-6
\1,000円

レナが優しい。
勿論、今までも優しかった。
本来、インドネシア人っぽく温和でのんびりした、それでいて頼れる雰囲気を持つ女性だ。
でもそんなレナも、キツイ表情をすることが時々あった。
アウィンが私に向かって、どこへ行こう、何を食べよう、どこのお店のあれが美味しくてーマユミに食べさせたい…こんな話題を、頬を紅潮させて言う時だった。
同じアパートのシェアメイト同士であるアウィンとレナは、普段は質素に食費を浮かせてやりくりしているらしい。
それなのに、私を誘ってレストランへ行かないかとはしゃぐ姿にムッとくる様子だった。
奥様みたいだよ、レナ。
そういうと、更に膨れた。

今夜はシドニーの夜景と食事が堪能出来るシドニータワーへ行こう!
それは、インサンの提案だった。
アウィンが言い出したらレナが膨れただろう。
そう思ったとき、アウィンが意外な事を口にした。
「あそこは多分、予算オーバーだよ。高すぎるから、やめておこう」
「……」
一瞬の間をおいて、レナが笑顔で言った。
「でも、マユミにとって最後のシドニーだもんね」
いつものアウィンなら、一番に乗りそうな話だったのに。
レナは膨れる事もなく、タワーで食事でもいいじゃない? という。

インサンは、自分の父親が息子の様子を見に来た時に一度だけシドニータワーで食事をしたそうだ。
今度はマユミと一緒に≠クっとそう思ってきたという。

ありがとう、インサン。
そしてレナ。
アウィンは新しい女友達へ興味の対象が移ったようだ。
アウィン一人が反対したが、結局シドニーで一番人気のインドネシア料理店へ行くことになったのだった。
 
皆とそれぞれの想いを胸に地上から見上げる南十字星と満天の星たちよ。次にシドニーを訪れる時は、誰とこのシドニータワーで食事をするのか? それとも一人なのかな? そんな事を私は考えていた。

でも、この中からその後、カップルが登場しようとは、誰が予想しただろうか? 
姉さん女房のレナとアウィン? 果たしてどうなるのか?

シドニータワーに未練たっぷりな様子のインサンの、がっかりした足取りを暗闇の中で見つけた私は、クスッと隠れて笑った。

「マユミ、インサン! 遅いっ! 信号が変わるよ」

レナに急かされて 二人で小走りした。

「ねっ、インサン。今夜、何を食べようか? ガドガド? ナシゴレン? それともミーゴレン? 私が知っているのは、これだけかぁ〜」
本当は、私も夜景を見ながら何も未練が無いといったら、嘘になる。
でもアウィンの提案に 私以上に気乗りがしない様子のインサンを、ただいつものようにおしゃべりにしたくて。
わざと はしゃいで見せた。 
知っているだけのインドネシア料理名を並べて。
そんな私にインサンも合わせてくれた。
「それから、俺が作ったインスタントのインドネシアラーメン!」
「うん。そうだったね!」
信号を渡り終えて、インドネシアンレストランに着くころには…。
皆の笑顔が戻っていた。





グラシアスの魔法使い
〜解き放たれた魔法〜

著 金野仁美

isbn-978-4-903847-29-0
\1,260円

 メルシーと神話の世界

メルシーはユニコーンに乗って荒地を走っていた。どうしたらいいのか分からず不安は大きかったが、メルシーはすぐにこのユニコーンが好きになり、信頼をよせていた。このユニコーンに乗っていると、何だか安心するのだ。
(きっとこのユニコーンは、時間稼ぎの為にブレンダから逃げてくれているんだわ)
メルシーは、ユニコーンの気持ちが分かったような気がした。
荒地を抜け、森のような場所に入った。両側に連なる木々の間をどんどん抜けていく。
その時、メルシーは背中に嫌な感じを覚え、後ろを振り返った。ブレンダが遠くに見えたが、逃げてばかりいるメルシーを嘲笑うかのように口元に薄ら笑いを浮かべている。二人の間には大分距離があるはずなのに、メルシーにはブレンダがすぐ後ろにいるように感じられた。
ふと、コウモリの目を見た瞬間、心臓が波打った気がして慌てて視線を前に戻した。
(何だったの? 今の…)
メルシーは、ドキドキしている心臓を左手で押さえながらうつむいた。
〈あのコウモリの目を見てはいけません。邪悪な超音波を発しています。超音波にやられたら、操られてしまいます〉
どこからともなく、メルシーの耳に誰かの声が聞こえた気がした。
(えっ? 今の、誰の声なの…?)
メルシーは辺りをキョロキョロ見回した。でも、今の声は、耳で聞いたというより、頭の中に直接入ってきたみたいだった。
メルシーは、自分を乗せているユニコーンを見た。
(まさか…このユニコーン?)
自分の考えていることに対して応答はしてくれなかったが、メルシーは、直感でさっきの声はこのユニコーンに違いないと感じた。
 ギルバートは、ペガサスのライと共に戦っている。アンディさんは、グリフィンと共に戦っている。ジャックは、ドラゴンと共に戦っている。そして、メルシーはユニコーンと共に戦っている。
それぞれが神話の世界の生物と共に戦っている事が、メルシーにとっては不思議でたまらなかった。この神話の生物たちは魔法によって現れたものだったけれど、この地球には、今もどこかに必ず魔法使いがいて、神話の生物たちが生きている気がした。
だって、それ程、この世界は広くて不思議な事ばかりだから…。きっと、自分たちの知らない世界がもっと広がっているはずだ。神秘的な気持ちが、胸の奥底でうずいていた。






ガーリック博士のおみやげ話

かがい みえこ 作
こいで みほ  絵


isbn-978-4-903847-27-6
\1,365円

2 (博士の話)スパイス島

 遠い南の海に、まるでピーマンのような形をした緑色の島があってな、そこには、とてもめずらしい鳥がいると、船乗りから聞いたことがあったのさ。
 なんでも一度見たらそのすがたの美しさ、そしてそのきれいな瞳が、忘れられないほどだと言うのさ。
その島はスパイス島といって、地図にもない小さな島で、しかもプカプカ浮かんで海の上を動いているらしいんだ。だからそこへ行くのはとても難しいので、その島に行った者は、ほとんどいないそうなんだ。
 うーん、なんだかワクワクする話じゃないかい? めずらしいとか、難しいとか言う言葉にわしはいつだって、心がおどるよ。めずらしいもの研究家の血がさわぐといものさ。
 そこで、研究に必要な物を準備して、飛行機で南の国まで行き、そこから船を借りると出発したんだ。いやぁ〜実に遠かったなぁ。それに地図にない島なんて見つけるのにも時間がかかったさ。
 ガイドといっしょに船を借りてから二週間目に、わしはとうとうスパイス島をみつけたんだ! まるでピーマンのような形をした緑の島が浮かんでいたのさ!
「あれが、うわさに聞くスパイス島だな!」
 さっそく船を入り江に近づけて行った。
この島には、たしかコショウ族の人たちが暮らしていると聞いているが、どこにいるんだろう? 木々におおわれた、鮮やかな緑一色の島には人影も見えない。
コショウ族はおだやかな人種らしいので、わしが襲われることはないと思うが、なんだかあまりに静かで不気味だな・・・
 船を停泊させると、いっしょについてきた
ガイドは、
「わしはここで待っていますぜ。船にも留守番が必要ですからね」
と、どうしても下船しないんだ。なんだか気になったが、もしもの時の連絡係も必要なので、わし一人で向かうことにしたんだよ。
サファリルックに身を固めて、さぁ出発だ。
 サラサラして、まばゆいほどの白い砂浜に、足を踏み入れると、さっきまで少し緊張していた気持ちがうすれて、わしのワクワクした気分がもどってきたのさ。
「素晴らしい景色だ! コバルトブルーの空、
白く輝く砂浜、つややかな緑の木々! 咲き乱れるブーゲンビリア! そしてこの甘いフルーティーな香り・・・おおぉぉ・・」
 その時、うっとりと目を細めて周囲を眺めていたわしの目に、異様な姿が映った。
「なんだ? なんだ、あれは? 人間か?」
 黒い姿をした人が、一人、また一人、とジャングルの中から現れてきたのだ。手には槍を持っているではないか!
「こっちへ来るぞ! たのむ、来るな!」
 わしは、恐怖を感じながら心で叫んでいたよ。だって、わしは槍どころか武器なんて持っていないのだからねぇ。こういうのを丸腰というんだ。
「あれがこの島に住むコショウ族か! まるで未開人じゃないか! 腰に巻き付けた布の簡単な服しか着ていないぞ。あぶないかもしれんな。だが、落ち着け。ここで逃げたらかえってあぶないさ」
 わしは今までの様々な経験から、必死で気持ちを落ち着かせ、どうすればいいのか考えた。以前山奥で、熊に出会ったときもそうだったじゃないか! あの時は、じっと動かずに居たあと、携帯用非常ベルを鳴らして追い払ったな。今は猛獣じゃないんだ。人間だよ、人間! 言葉ってものがあるんだ。そうだよ、
敵ではないという笑顔と言葉だよ! もっともその言葉が通じてこそなんだがね・・・
「やぁ、みなさん。こんにちは!」
 わしはにっこりとほほえみながら大声で言った。





くくり狐

中村千恵子  作
伊藤晴美   絵


isbn-978-4-903847-28-3
\1,260円

♪お楽しみ給食会へのご招待♪

今度の水曜日、5年生の教室で(お楽しみ給食会)を開きます。
当日は11時40分ごろに家まで迎えに行きますから自宅で待っていてください。
招待者は梅さん・竹子さん・菊枝さん・千代さん・権蔵さんの5人です。
僕たち、私たちと一緒に給食を食べてください。
みんなで楽しみにしています。

************************************

僕たちは招待状の表には自分の顔を、裏には自分の名前を、好きな色のマジックペンで書きました。
とてもきれいな招待状が出来ました。
放課後、僕たちは分担して、5人のお年寄りの家に立ち寄って招待状を手渡ししてから家に帰りました。
5人のお年寄りは「ありがとう」と言って、みんな嬉しそうに招待状を受け取ってくれました。
僕は“早く(お楽しみ給食会)が来るといいな”とウキウキしました。

それから数日が経ち、お楽しみ給食会の日になりました。
その日は空が真っ青に澄みきった気持ちの良い日になりました。
僕たちは4時限が終わると5人のお年寄りをお迎えに行くことにしました。
教室から外に出ると南先生は晴れ渡った空を見て「お日さまも笑っているみたいですね」と言いました。
タッチンギュ先生は「日ごろの行いが良かったのでしょう」とニコニコと笑ってお日さまをまぶしそうに見上げました。

お迎えは、学校から遠い家から行くことになりました。
大きなケヤキの木がある青い屋根の家が千代さんの家です。
千代さんの家に行くと、千代さんは、もう玄関に出て待っていてくれました。
千代さんが家に鍵をかけていると権蔵さんがこちらに向かって元気に歩いてきました。
僕たちは「こんにちは」と元気に挨拶をしました。
千代さんと権蔵さんはニッコリとして僕たちに「こんにちは」と言うと
「いやいや、本日はお世話になります。ご苦労様です」と南先生やタッチンギュ先生にお辞儀をして挨拶をしました。

次は菊枝さんの家に向って歩いて行きました。
菊枝さんの家に行くと梅さんと車椅子に乗った竹子さんが家の外で僕たちを待っていてくれました。
竹子さんは「本日はご招待ありがとうございます。私たちから心ばかりの気持ちですよ」と言うと、
ひざの上に乗せていた沢山の白菊の花を僕たちにプレゼントしてくれました。
白菊の花は透き通った秋風みたいなとても良い香りを漂わせていました。
女の子たちはプレゼントされた白菊の花に集まると、白菊の花に鼻をくっつけて「ホラ、良い香りがするよ。すてき」と言って小さい声で(うふふ)と笑いました。
 
陽子ちゃんは杖をついて歩く菊枝さんを見ると「陽子が一緒に行く」と言って菊枝さんの手をにぎり歩き出しました。
それを見た他の女の子たちも、おばあちゃんと手をつなぎ歩きました。
おばあちゃんと手をつなげなかった女の子たちが権蔵さんとも手をつなごうと次々に権蔵さんに手を伸ばすと、権蔵さんは
「あらま。俺みたいなじっ様とも手をつないでくれるのかい? うれしいねぇ〜。みんな優しくて美人だなぁ〜。どの子を嫁さまにもらおうかな?」
と言うので、みんなで笑ってしまいました。



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